アマミノクロウサギ


 奄美大島と徳之島にだけ生息するうさぎがいます。
 〈アマミノクロウサギ 〉といいます。
こんな感じです。→click
 
 先日たまたま見ていたNHKの『地球・ふしぎ大自然』という番組でこの〈アマミノクロウサギ〉の子育ての特集をやっていました。
 
 うさぎの本能って・・・動物の本能ってスゴイです。

 子供は親うさぎの巣穴から離れた場所に作られた穴の中で生活します。
 母うさぎは1日2回、自分の巣穴から子供の穴へ授乳のために通ってきます。
 (普通うさぎの子育てというのは基本的にメスのみで、オスはタッチしないそうです。)
 
 子供の穴は外敵に見つからないよう、外見からはまったくわからないように入り口は埋められていますが、
母うさぎはちゃんと穴の場所を覚えていて、穴の場所に到着すると前足と口を使ってせっせと入り口を掘り返します。
 穴の入り口が出てくると子うさぎが顔だけをのぞかせ、おっぱいを飲みます。
 授乳を終えると母うさぎは穴からちょっと離れ、毛づくろい。
 一仕事終えて、リラックスしているのかと思ったら、子うさぎのにおいを消すためにしているのだそうです。
 そして毛づくろいが終わると子うさぎの穴をまたふさいでしまいます。
 穴の入り口に土をかぶせ、さらに前足でトントントンと土を押さえつけて地固めまでします。
 最後は丁寧に木の葉までのせて、これで穴の入り口はあたりの地面と一体化してしまいました。

 そして母うさぎは自分の巣穴へと戻って行きます・・・
 ・・・・が、必ず寄り道するそうです。

 この寄り道。
 食事をし、トイレをするための寄り道なのですが、自分の巣穴とは違う場所でします。
 巣穴や子うさぎの穴の周りに自分の気配を残さないようにするために・・・・。
 
 母うさぎの行動範囲は巣穴から約200m四方だそうです。
 小さなうさぎにしては結構な広範囲で崖っぷちや険しい山道でも乗り越えてお構いなしです。。

 このような子育てが約1ヶ月続きます。
 もちろん時に島には雨が降ります。
 雨の日は母うさぎが通って来れません。
 番組では2日雨が降り続きました。その間、母うさぎは通ってきませんでした。
 3日目、通ってきた母うさぎに、子うさぎは元気な姿を見せましたが、これがもっと長雨だったら、子うさぎはどうなるのでしょう。
 外敵だっています。
 番組ではヘビが現れました。大人うさぎを襲うことはないそうですが、子うさぎだと襲うそうです。
 巣穴の周りで遊んでいた子うさぎは、ヘビの気配を感じると急いで穴の中へ入っていきました。
 穴は1.5mくらいの奥行きがあるそうです。
 何もないところからあの小さな前足でこれだけ掘っていくのはきっと大変なことです。
 
 やがて巣立ちの日がくると、母うさぎはいつもやっていた巣穴の入り口を閉じてしまうことをやめました。
 そして少し離れたところから「キィキィ」と鳴き、子うさぎを呼びます。
 これまで巣穴の周りを離れることなどほとんどなかった子うさぎが、初めて外の世界へと出て行きます。
 母うさぎの鳴き声を頼りに・・・。
 巣立ちです。
 
 その後、子うさぎがどうやって成長していくのかはまだ謎のままだそうです・・・。

 そもそもうさぎの祖先というのは森に住み、耳も長くなかったそうですが、森から草原へとだんだんと行動範囲を広げていくと、
草原で生活する肉食動物に狙われるようになりました。
 草原で狙われると、森の中のように身を隠す木陰や、洞窟、岩陰などはありません。戦っても勝ち目はありません。うさぎはとにかく逃げるしかないのです。
 また草原では日が照りつけても森の中のように日差しを避けることが困難です。
 よく見るとうさぎの耳は体に比べて毛が薄く、毛細血管が網の目のようにはりめぐっています。この血管から効率よく熱を放射できるように耳も長くなっていきました。
 (そういえばみみたは緊張しているとき耳だけがつめたーくなってることがあります。そんなことないですか?)

 うさぎがそのような進化を遂げてきた中、〈アマミノクロウサギ〉は丸いくろっぽい体つきで耳はとても小さいです。(ちょっとネザーっぽいかな)
 幸い奄美大島には昔から〈アマミノクロウサギ〉の天敵が生息していませんでした。海の上の孤島ではよそからの外敵に狙われることもありません。そのため一般的なうさぎが一度の出産に平均3〜5匹の子供を生むのに対して、〈アマミノクロウサギ〉は1匹づつ産んで育てます。(番組では2匹の子うさぎが同じ穴に確認されました。とても珍しいことだそうです。)
 小さな島で、しかも天敵の少ない自然の中ではこの程度の繁殖力で増えすぎず、減りすぎず、十分種の保存が可能だったのです。こうして自然のバランスがうまくとれていた奄美大島で〈アマミノクロウサギ〉は昔からの姿のままで残っていくことができたのです。
 そう、最近までは・・・。
 しかし、近年、人間がハブ退治のためにもちこんだマングースに狙われて数が激減し、絶滅の危機だそうです。

※ハブとマングース。お互いを見合わせて戦うとマングースに勝ち目があるのですが、自然の中ではハブは昼、マングースは夜に行動する生物だったため、お互いが出会うことはほとんどなかったのです。それどころかマングースと 同じ夜行性のうさぎが餌食となっていったのです。

 うさぎは食物連鎖の中で捕食される側に位置する動物です。
 食物連鎖は自然の摂理として仕方のないことではありますが、この摂理を人間の外的な手で壊してしまい、絶滅危惧種を増やしてしまったこと・・、思いがけないこととはいえ、悔やまれることです。
 〈アマミノクロウサギ〉のような繁殖力の小さい動物は一度減りだすと数を戻すのが大変困難です。

 マングースの捕獲作戦など〈アマミノクロウサギ〉を絶滅から守る努力はされています。うさぎと生活をともにしている贔屓目でマングースは必要ないと思ってしまいますが、マングースの立場に立てば、勝手に島へ送られ、そしてまた勝手に捕獲されてしまう・・・うさぎとマングース、どちらを重視すべきなのかは考えてしまうところです。
 同じ命をもった生き物だから。